東京証券取引所は定期的に上場会社の「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」を集計・分析した「東証上場会社 コーポレート・ガバナンス白書」を作成しています。
2023年4月4日に「東証上場会社 コーポレート・ガバナンス白書2023」が発行されたため、今回以降はしばらく同資料を参照して昨今の社外取締役事情の変化を取り上げていきます。
今回は取締役の兼任状況の変化を取り上げます。
日本のコーポレートガバナンスコードでは「取締役・監査役は、その役割・責務を適切に果たすために必要となる 時間・労力を取締役・監査役の業務に振り向けるべきであり、他の上場会社の役員を兼任する場合には、その数は合理的な範囲にとどめるべきとし、さらにその兼任状況の開示を求め ている。」と記載されている通り兼任は推奨されていないのが現状です。
兼任が増加した際に起こりうる問題には以下のようなものが挙げられます。
- 時間と労力の制約:複数の企業で役割を担う社外取締役は、それぞれの企業の業務に十分な時間や労力を割くことが難しくなります。これにより、適切な監督や意思決定が行われず、コーポレートガバナンスの質が低下する可能性があります。
- 利益相反のリスク:兼任する社外取締役が、競合する企業や利害関係のある企業間で役員を務める場合、利益相反が生じる恐れがあります。これにより、公正かつ透明な経営判断が妨げられ、企業価値の低下につながることがあります。
- 独立性の低下:兼任する社外取締役が、同じ経営陣やグループ企業の役員と複数の企業で共同で働くことで、独立性が低下することがあります。これにより、彼らが経営陣や企業への監督機能を十分に発揮できなくなり、コーポレートガバナンスの目的が損なわれる可能性があります。
各社社外取締役を増加させるために活動をしているはずですが、全体の社外取締役の兼任状況の推移はどのようになっているのでしょうか。
以下が2020年と2022年の兼任状況を比較した表になります。
内容を見てみると、2年間で社外取締役の総数が約500名増加しており兼任割合は大きく変わっておりません。
ここから読み取れることはマーケットの求める水準までコーポレートガバナンスのレベルが上がっているかはわかりませんが、少なくとも兼任ではなくそもそもの社外取締役の増加という健全な成長を見せているのではないでしょうか。
今後マーケットがさらにコーポレートガバナンス強化を標榜するのであれば、より一層社外取締役未経験の人材の登用が必要になってくると考えられるでしょう。